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三十路が綴る、由無し事

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志(【書評】坂の上の雲(一)/司馬遼太郎)

座右の書は「竜馬がゆく」である。

竜馬がゆく (新装版) 文庫 全8巻 完結セット (文春文庫)

竜馬がゆく (新装版) 文庫 全8巻 完結セット (文春文庫)

 

 近代日本の大きな転換点となった明治維新は、坂本龍馬一人の手によって成し遂げられた、と言うのは些か乱暴であり多くの幕末志士への冒涜になりかねないが、少なくとも明治維新は坂本竜馬無くしては成し遂げられなかったとは言えるだろう。

私は彼が成し遂げた事柄より、純粋に彼の人柄に心酔している。

大海原に大きく広げた志、波に揺られるように自分の信念に身を委ねた生き方、彼の定めが維新であったかのように暗殺される最期、これほど人生のどこを切り取っても絵になる生き方をした人物は歴史上稀有な存在なのではないか。

歴史の中でも人気を二分する戦国と幕末であるが、私は竜馬のおかげで断然幕末派である。

 そんな幕末後の日本を描くのが、坂の上の雲である。

※家族に何を読んでいるのか聞かれ「坂の上の雲だよ」と答えたら「え?崖の上のポニョ?」と聞き返される程度に私の活舌は悪く、両者には不思議な音感の一致がある。

 

あらすじ

維新を遂げ、急速に文明開化を進める明治初期の日本。その中でスポットライトがあてられるのは後の日本軍において重要な役割を果たす秋山好古、真之兄弟と、文学の世界に巨大な足跡を遺した正岡子規の三人である。

一巻では彼らの生い立ち、学生時代が中心に描かれている。

彼らがそれぞれ何を思い、どのような経緯で歴史的な偉業を成し遂げるに至ったか、その萌芽を感じさせる内容となっている。

 

感想

何よりもまずこの時代(明治初期)の日本の風潮を改めて認識し驚かされた。

三百年の鎖国を経て開国した日本をは息せき切って欧州の文化を取り入れていく。その時代にあっては、意思があれば日本一を目指せる分野がそこかしろに転がっていたのである。

やるからには日本一になる、その道において到底敵わない人物が既にいるのであれば潔く別の道を探す。とにかく一つの道へ向かい勉学に励めば日本における第一人者になれる環境というのは、正直羨ましく感じてしまった。

現代において、自分はこの分野で日本一になるんだと豪語することはなかなか一般人には難しい。勿論、それは正しい努力によって成し遂げられるという本質は今も変わっていない。しかし実際問題として、若者全体にそういった期待感があるのと無いのでは全く異なるだろう。

時代のせいだと嘆くのは愚かなことだがしかし、この時代に生まれていればと想像することを禁じ得ない自分がいることは事実である。

 

一巻で一番印象に残ったのはやはり升さんこと正岡子規であった。どこか達観した死生観という意味では先述の竜馬にも似た雰囲気を感じ取ることができた。

彼が今後どのようにして日本の文学界へ影響を与えていくのか非常に楽しみである。

また、これは司馬遼太郎の歴史小説に共通する特徴であるが、随所に挟まれる余談や当時の様子が目に浮かぶようなエピソードは長い小説にあって良いスパイスになり読者を飽きさせることがない。

やはり現代とは時代背景が全く異なる中で、どうしてそのような思想に至ったのか当時の空気を感じながら読み進められるのが素晴らしい。

 

というわけで、本作については全八巻一巻ごとに書評を寄稿していこうと考える次第である。ややもすると一気に読み通して、どこか全体的な印象しか残らなかったということになりがちであるが、巻ごとに区切りをつけて振り返るのは我ながら良い判断なのではないかと思う。単にブログのネタ稼ぎでは断じてない。

坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)

坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)

 

 

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